Ark




はじめに

 このシナリオはクトゥルフ神話TRPG基本ルールブックに対応したシナリオである。2~4人向け。
必須技能:<目星>などの基本探索技能
推奨技能:戦闘技能、<コンピューター>、<生物学>、<医学>
プレイ時間:2時間程度(戦闘に慣れていないPLがいる場合はその限りではない)
注意事項:このシナリオは最終的に戦闘が行われるよう設定されている。戦闘をするということをPLに事前に伝えておくこと。









事件の真相 KP情報

 永遠の命を求めた医者は、廃病院をミ=ゴの隠れ家兼研究所として提供している。
医者に引き取られた孤児の兄妹は、ミ=ゴの実験体となってしまう。 周辺の動物や家畜だけでは飽き足らず、ミ=ゴは更なる実験体を求めるべくフラーテルの名を騙り探索者たちをおびき寄せようとしている。 病院にある首なし死体は、探索者と同じく探索に来た者である。
 ミ=ゴの住む星ユゴスを「楽園」、円筒状の脳収容器を「箱舟」と謳うミ=ゴによる教えを信じた医者は、脳だけとなり彼らの星へ行った。
ミ=ゴは医者の願いを聞き入れ、兄妹も医者と同じように星へ連れていこうとしている。 狂気に陥ったまま脳を摘出された妹とは違い、正気のまま脳を摘出された兄は、 医者とミ=ゴによる箱舟実験を手伝っていたことに後悔し、妹と安らかに死ぬことを願って収容器の中で眠っている。
本シナリオの目的はミ=ゴを倒すことと、兄妹の脳を破壊することの二つである。

導入

 8月、探索者は六年以上疎遠になっていた知り合いの医者、あるいは恩師に、久々に連絡を取ってみた。電話に出ないので忙しいのかと探索者は受話器を置く。しかし、その数分後、探索者の電話にFAXが送られてきた。それも、先程探索者がかけていた電話番号から。内容は以下の通り。
「妹は気が狂ってしまったのか、在りもしない妄想を語り、自分に迫ってくる。何度もナイフを向けられた。
閉鎖的なこの場所では、何が普通で何がおかしいのか判断がつかなくなるのかもしれない。
他人からの注意を受けた方が、妹も考え直してくれるだろう。力づくで引き離してもらっても構わない。
誰でもいい、僕を助けてほしい。このままでは妹に殺されてしまう。報酬はいくらでも出します。 
フラーテル」
再び電話を掛けてみるも、誰も出ない。探索者は奇妙に思い、もともと彼に会うつもりだった探索者は医者のいる村へ行くことに決めたのだった。

(もう一つの導入の例)探索者は警察関係者である。警察の厳重なセキュリティーをかいくぐり、奇妙なメールが届いた。フラーテルと名乗る者からのものである。探索者はこのメールの出処と、何故このような物が届いたのか調査を行うことにする。

 病院のある村は小さな集落で、山に囲まれていて閉鎖的である。村行きのバスで探索者を合流させるといい。 病院は村の北にある森の中にある。アスファルトで舗装された道はあるので、迷わず行くことができそうだ。 病院に向かう前に周辺住人に聞き込みをしてもよい。

周辺住人への聞き込み

 畑を耕している人や、家畜の世話をしている人に話を聞くことができるだろう。

・廃病院と院長について
 村の唯一の個人医院だった。院長の息子は跡を継がずに村を出て行ってしまい、妻は六年前に死んでいる。 更にその翌年に、院長は事故で足が不自由になってしまい、車椅子生活をしている。それを機に、病院を閉めてしまった。 それからすぐに孤児を拾ったらしく、兄妹と思われる人物を連れて来た。慈善活動のつもりか、あるいは自分の面倒を見てもらっているのかもしれない。

・兄妹について
 彼らと話をした者はこの村にいないので、名前も、どういった人物なのかも知らない。 一ヶ月に一度ほど兄が隣村に車で向かっているのを見かけており、おそらく買い物をしているのだろう。最近は見ていない。

・家畜失踪事件
村人は誰でも、この一年の間に家畜やペットが行方不明になっていることを知っている。 犬や豚、鶏などが時々いなくなっている。森にいる動物の仕業かと思われたが、猟師曰く一年前くらいからぱったり動物が姿を見せなくなったようだ。 動物に関する奇妙な出来事が相次いでいる。家畜を飼っている人のもとへ行けば、奇妙な爪痕の残る家畜小屋を見せてもらえるかもしれない。

森の道

 廃病院に続く道は舗装されているが、道を外れて森の中を行けばすぐに迷ってしまうだろう。
ここで<聞き耳>を要求する。この時期ならば沢山聞くことのできるはずの蝉の鳴き声が聞こえず、動物がいる気配がしない。 不気味なくらい静まり返っている。その静寂は森の奥、病院に近づくにつれ強くなっていく。 まるで動物たちがそこに近づくのを避けているかのように。
<目星>を行うと、舗装された道から少し逸れたぬかるんだ場所に奇妙な足跡を見つける。 それに対し<生物学>を行うと、奇妙な、かぎづめの生えた生き物で、今まで見たこともない動物であろうと推測できる。

廃病院

 平屋の廃病院と、その裏手に院長の自宅がある。
■自宅
村の中では一番大きい平屋で、その隣に車庫がある。車が一台ある。外出したとは考えにくい。自宅はインターホンを鳴らしても応答はなく、 郵便受けには大量に手紙やチラシが入っている。自宅の扉には鍵が掛かっている。

【KP情報:廃病院に誰かがいると思わせるため、<聞き耳>を要求し、廃病院から高い所から何かが落ちたような物音が聞こえると伝える。】

■廃病院
 病院の正面玄関は自動ドアだったようだが南京錠が掛けられ、更に机や棚などで入口が封鎖されている。 窓は閉め切られ、カーテンで中は見えない。自宅の方からすぐに見える裏口の扉は、鍵がかかっていない。

裏口から入ると、倉庫に出る。廃病院の中はカーテンが閉められていることもあり薄暗く肌寒い。動いている時計の音だけが微かに聞こえてくる。
地図
※鍵無しで入れる部屋は、倉庫・診察室・トイレ・受付と待合室である。
倉庫、診察室、トイレ、控室1、控室2、院長室、管理室と、それぞれ扉に書いてある。

【KP情報:部屋を幾つか探索し終えた頃に、<アイデア>で何者かに見られている気がすることを伝える。 <目星>をすれば、どの部屋にも監視カメラがあることに気付く。】

廃病院の探索

・倉庫
腐臭が漂っている。黒い布を被った段ボール箱が沢山置かれている。中を見ると、動物の死骸が詰め込まれている。(0/1D2)
死骸に<目星>を行うと、別の動物の顔と体を入れ替えて縫い付けられているものや、驚いたように目を見開いて死んでいるものがあることに気付く。 犬、猫、豚や鶏が多くみられる。<医学>では、頭部に手術の跡のような物が見られることが分かる。

・待合室と受付
埃を被った長椅子や、枯れた観葉植物が置いてあり、受付には机と、空になった棚がある。
<目星>で、机の中に鍵が三本あるのを見つける。(診察室、控室1、2の鍵である)

・トイレ
男女共有トイレ。首なし死体が3つある。(1/1D4+1)
【KP情報:首なし死体は、かつて探索者と同じように此処を訪れた者である。ミ=ゴの実験体にされてしまったのだ】

・診察室
薄暗い診察室の中には、机とカーテンで仕切られたベッドがありそうな場所がある。それぞれ<目星>で調べられる。
机の中には院長室の鍵、机の下には「6月○日10:30 被験体1076」というメモが落ちている。
カーテンを開けた場合、ベッドの上に首なし死体がある。正気度ロール(1/1D4+1)
男の持ち物を漁ると、探索者が貰ったフラーテルからの訴えと同じ文面の手紙がある。

・控室1
部屋の中には人間が入れるほどの檻があり、檻の中にはベッドと机がある。檻の鍵は開いている。それぞれ<目星>で調べられる。
ベッドの下には銀色に輝くナイフが一本落ちている。
ナイフ(30%)1D4+db
机の引き出しには一冊の日記がある。

【妹の日記】
2月○日(雪)
お兄様は何故私を遠ざけようとするのかしら。あんなにも私を愛してくれていたのに。
私はこんなに大好きなのに。どうして拒むの?どうしてあんな冷たいことを言うの?
何を私に隠しているの?
どうして私は、こんな所に閉じ込められなきゃいけないの。

6月○日(雨)
お兄様が実験を受けた。まるで別人みたいに、すっかり変わってしまった。私はあれをお兄様と呼べるのかしら……。
違う、あれは兄じゃない。私の大好きなお兄様じゃない。あれは別の……別の……。

6月×日(雨)
お兄様は素晴らしいわ!これで私達の魂は地上の摂理から解き放たれ、楽園で永遠に愛し合えるのね!楽園へ還りましょう、お兄様!


・控室2
机と棚、ベッドがある。ベッドには何もない。それ以外は<目星>で調べられる。
棚の中には、見たことのない機械が入っている。何かに繋ぐ物のようだが、その使い方はどんな技能を持ってしても分からない。
【KP情報:この装置は脳収容器と繋げる物である。】
机の中には日記と、管理室の鍵がある。

【兄の日記】
1月○日(晴れ)
養父の言っていたことが事実なら、あれは創造主であり、医者であり、魔術師である。禁断に手を染めることで、僕も神になれるのだろうか。
期待と同時に、恐怖を感じる。でも、知りたい……。

2月○日(雪)
妹に嘘を吐いてしまった。あんなひどいことを、本当は言いたくなかった。
でも分かってほしい。巻き込みたくはないんだ。
これは僕の好奇心だから、僕だけの問題だから。
君は関係ないから。何も、知らないでいて。

6月△日(曇り)
ついに明日だ。
今更かもしれないが、どうしようもなく怖い。
もう逃げられない。逃れることはできなくなる。箱舟を騙る、あの狭い容器の中から……。
6月○日(雨)
驕れる無能な創造主にでもなった心算だったのだろうか。
怖がりな僕の最後の願い……。どうか、妹と《本当の楽園》へ還れますように。

・院長室
白衣が掛かっている部屋。机、棚は<目星>、本棚は<目星>あるいは<図書館>、パソコンは<コンピューター>で調べられる。 机には手記がある。

【医者の手記】
楽園へと至る箱舟は完成した。
いよいよ私はこの不自由な檻の中から解放され、過去と未来の全てを、永遠を手に入れる。
私は、神に選ばれしノアなのだ。
しかしこの素晴らしい人類の第一歩に、私以外も立ち会うべきだ。
いずれ世界中の哀れな魂たちがこの箱庭から解き放たれ、救いを得るために。

棚には、薬品類が並ぶ中に奇妙な円筒状の容器がある。中は液体で満たされており、探索者の頭の中で動いているのと同じであろう〝脳〟が入っている。 それは偽物などではなく、本物の人間の脳だ。しかもそれは二つ並んでいる。(0/1D2)
脳収容器に<目星>で、容器に1096、1076と書かれたシールが貼られているのに気付く。
【KP情報:1096が妹の脳、1076が兄の脳である。これらを破壊すると宣言された場合、<アイデア>を振らせ、 もしかしてこれはまだ「生きている人間の脳」なのではないだろうか、と探索者はあり得ない想像をすることを伝える】

本棚の本の中に、ノートを切ったようなメモが挟まっている。内容は以下の通りである。
我々人間をユゴス星へと導ける箱舟は 哀れなる魂を地球から解放し
救いを求める者には永遠が与えられる
楽園へとたどり着いた者は過去と未来を見る神と出会い
全てを手に入れることができる
漆黒の神が統べる星は魔術師たちの楽園である
【KP情報:ユゴス星で崇拝されている神は、ヴェールをはぎとるもの、ダオロスである。 ダオロスの名前を出す場合は、正気度ロール(1/1D4)クトゥルフ神話技能に1%】

パソコンにはパスワードが設けられている。<コンピューター>に成功すれば、ログインすることができる。
「脳収容器との使い方」というPDFファイルが入っている。これを読む場合、正気度ロール(0/1)を行った後、脳収容器の使い方を習得する。 また、探索者が控室2の棚にある機械を発見していた場合、<アイデア>で、それに繋げばいいのだと気づく。
(※コンピュータに失敗した場合は救済措置として、本棚に<図書館>で「コンピューターの使い方」という本があるのを発見する。 これを読むと<コンピューター>技能に一時的に30%補正がつく)

1096を繋いだ場合、機械的だが少女と分かる高い声で狂ったように 「サア、楽園ヘ還リマショウ、オ兄様?ウフフフフフフフ」という狂った笑いのみ聞くことができる。
1076を繋いだ場合、機械的だが若い男と分かる低い声で「ココハドコダ……?妹ハ?」と尋ねる。彼は兄フラーテルであり、 自分が医者の「箱舟」に関する研究を手伝っていたこと、自分もその実験体とされてしまったことを話してくれるが、 妹が脳収容器に入れられた、あるいは狂ってしまったことを悟るとすぐに彼は発狂してしまう。
「失ウコトデシカ手ニ入レラレナイ、コンナ永遠ニ何ヲ望ンデイタノダロウカ……!殺セ!殺シテクレ!妹モ殺セ!殺シテクレ!」と言ったきり、絶叫を続ける。

永遠を授ける魔術師

・管理室
聞き耳を行うと、中で誰かが喋っているような声が聞こえる。 (クリティカルか、あるいはファンブルでそれが人の言葉には聞こえない、モザイクのかかった声のようなことが分かる)
管理室の中は、他の部屋よりも暗い。カーテンの他に、何かで窓が塞がれているのだろうか。
暗闇に目が慣れてきた頃、何者かがその闇の中に佇んでいるのが見える。
黒いローブを纏った人物が、明かりも無いのに何かをしている。探索者がソレに気付いたように、相手も探索者に気付いたのだろう。 聞いたこともない不快な声で何事か囁くように言うと、ソレは探索者たちに向かってくる。
ローブを脱ぎ捨てたソレは、膜のような翼を持つピンク色の体、顔は短い触手に覆われており、虫のようにも茸のようにも思えた。 手にはハサミのようなものが生えているが、左手のハサミは欠けてしまっている。(0/1D6)

ミ=ゴ
STR11 CON15 SIZ13 INT12 POW12 DEX11 耐久力14
ハサミ 30% 1D6
回避 22%
(※探索者の能力値や技能で、ミ=ゴの能力値・技能は変更してよい)

戦闘を終え、部屋の電気を点けるとパソコンと、各部屋を映すモニターを見つけることができる。
パソコンは開いているので、技能なしに見ることができる。フラーテルの名で書かれた文章が見つかる。 それは、探索者がここに来るきっかけとなった文章である。
モニターはこの廃病院の全ての部屋を見ることができることが分かる。

エンディング

■End A望んだ永遠は『破滅』
(ミ=ゴを倒し、兄妹の脳を破壊した場合)
その後集落では、再び森の動物が姿を見せるようになったらしい。あの怪物に怯え、実験体にならないように逃げていたのだろう。
兄妹が本物の楽園とやらにいけたのか、探索者は知る由もない。しかし、狂気の中生き続けるより、破滅こそが彼らの楽園だったのだろう。
彼らは、探索者の手によって箱舟と呼ばれた狭い容器の中から解放されたのだから。

■EndB 狂気にも似た幻想
(ミ=ゴを倒したが、兄妹の脳を破壊しない場合)
その後集落では、再び森の動物が姿を見せるようになったらしい。あの怪物に怯え、実験体にならないように逃げていたのだろう。
縋る神のいなくなった兄妹は、今もあの廃病院の、埃塗れの棚の、箱舟と呼ばれた狭い容器の中で、狂気に抱かれ眠っている。「楽園」の幻想を見ながら……。

■EndC 禁断の器官に手を加えて
(ミ=ゴを倒せず、探索者の誰かがミ=ゴに捕えられた場合)
探索者は、夢を見ているのだろうか。ブクブクと泡立つ液体の中、自分が息をしていないことに気付く。息をするための口と鼻がない。 もっといえば、体がない。では何故自分の意識はここに存在しているのだろう。<アイデア>成功で、自分が脳収容器に入れられていることに気付く。(1/1D3)
硝子越しに何かが見える。見えるが、見えない。それは輪郭をたどろうとすればするほど理解の範囲を超え、探索者を狂気へ追いやる。 ダオロスを見たことによる正気度ロール(1D10/1D100)
いずれにせよ、このエンドに到達した探索者はミ=ゴによってユゴスに連れて行かれているので、ロストとなる。

■EndD 闇に囁くもの
(ミ=ゴとの戦闘から逃げ、ミ=ゴを倒さなかった場合)
探索者は無事に廃病院から脱出し、怪物から逃げることができた。
その後、集落では多くの人が行方不明になったらしい。きっとすぐに、集落から生きているものはいなくなるだろう。 あの廃病院の闇の中では今も、何かが囁き続けているのだろうか。

クリア報酬

ミ=ゴを倒した 1D6
兄妹の脳を破壊した 1D6
全員で生還した 1D3

あとがき

 拙いシナリオでしたが、ここまで読んでいただきありがとうございます。卓上の地平線の雑用係DAISUKE(ダイスケ)です。
本シナリオは「Ark」「永遠を手に入れた魔術師」をベースに、黒の教団を臭わせる内容となっています。 楽園をミ=ゴの住まう星ユゴス(冥王星)、箱舟を脳収容器にしようというアイデアはRさんから頂きました。 これをPLAYしたLaurantの方で、もし興味を持ちましたらラブクラフト全集1の「闇に囁くもの」を読んでいただけると楽しめるのではないでしょうか? Laurantでない方は是非、今日発売の小説「Elysion」を読んでいただけると楽しめるかと思います。
タクホラではクロニカ様がどの神格に近いか話題になることがあるのですが、僕はダオロスだと思っています。 見た目はともかく、過去と未来を見ることができるというところがピッタリじゃないですか?
こうしてシナリオを書いてみると、改めてサンホラとクトゥルフの親和性の高さに驚きます。 相談に乗ってくださったRさんと、読んでくださった皆様に、サンキュー&メルシーです!今後も卓上の地平線をよろしくお願いします。
By DAISUKE
Back scenario
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